さっと体制を整え、戦闘態勢ならいつでも受けて立つぞ、と身構えた。
「そそっかしくて、よく一矢に叱られてしまうの。をほほ」
なんとか笑顔を保つ。怒っちゃだめ。怒ったら…うう…(怒)。
「あなた、財閥のご令嬢でもないと先程おっしゃいましたけれど、よくそれで一矢様に釣り合うとお思いになられたのですね。神経を疑いますわ」
こっちこそアナタの性悪神経を疑うわ!
でも、喧嘩したら一矢が恥をかいてしまう。堪えるしかない。
これが巷で噂の悪役令嬢というヤツね。初めてお目にかかったわ。
「わたくしは、一矢様のお申し出をなんどもお断りいたしました。誰に言われなくても、彼と釣り合わないことは、自身が重々承知しております。しかし彼は、どうしてもわたくしが良いとおっしゃって下さり、こんなわたくしを選んで下さいましたので、彼のプロポーズを謹んでお受けいたしました。感謝しております」
にっこり笑って言ってやったら、相手の顔がみるみる般若のようになった。
まあ、怖い。中松とやり合っている時の私のようだわ。
「花蓮様も、一矢様を幼い頃から慕っていたとおっしゃいましたが、それはわたくしも同じで御座います。彼を支え愛したいと思っている気持ちだけは、誰にも負けないつもりでおります。花蓮様は花蓮様の知らない一矢様を存じていらっしゃるように、わたくしはわたくしにしか知らない一矢様を存じております。それで良いではございませんか。花蓮様が知る一矢様は、どうか花蓮様の思い出として、大切になさって下さい」
では、と部屋を出ようとした私を、低い、ひくーい声が制した。
「…初めて、だったのに」
「えっ?」
「一矢様は」一旦深呼吸した花蓮様が、マシンガンの如く喋り始めた。「幼い頃から花蓮を可愛がってくださっていて、花蓮の初めては全て一矢様に捧げ、将来を誓い合いましたのに、こんな裏切りはございませんわ! 花蓮はずっと、一矢様が迎えに来て下さる日を夢見て、ずっとずっとお慕いし、お待ちしておりましたのに! こんなどこの馬の骨かもわからないクズ女に一矢様を盗られてしまうなんて、絶対に絶対に赦せませんわ――っ!!」
唖然とした。
ちょっと…言い過ぎじゃない?
クズ呼ばわりされる筋合い、他人のアナタにござーませんわよぉぉぉお――――っ!
一矢も一矢よ!
こんな面倒なご令嬢に手を出すなら、きちんと後始末く